

妖しくも眩し梅雨入の熊野灘
僧房を遺す神領さるをがせ
田頭に寄り合うてゐる蛇日和
孟夏なれリヤカーに置く拡声器
谷蟆か小豆洗ひの音きこゆ
休耕の御饌田に散りて竹の皮
青梅雨の草木鳥獣虫魚かな
お互ひの見ゆるところに昼寝せり
いちれつに峰雲据ゑて熊野灘
草矢打つ岬の恵比須神社より
豆腐屋の井戸は健在雪の下 藤 勢津子
草刈機精一杯といふ音に 浅井 陽子
山頂に松が一本種降し 塩見 道子
手花火の輪ににじり寄る膝小僧 小林 恕水
夜の青き月の光に朴散華 山口 素基
置き去りのラジオ鳴りをり苺畑 田中 久幸
シンバルの出番は一度大夕立 中畑 隆雄
卯の花に潮の香至る日暮かな 山口 浩
媛陵の山の膨らみ椎の花 冨田 美子
母の日の母の声ある畑かな 田村 佐保
農道は古墳に尽きて遅桜 佐藤 紘子
乗込みの群れより離れゆくものも 辻 佐和子
夏焚火して安穏を否定せり 中村 敏之
今日ほどの明日あればよし藤の花 松葉 竹梅
水底のひかりゆらせる上り鮎 黒野 成彦
戦争を伝へるニュース母の日も 多田 恵子
岬には原子炉ありて海朧 松村伊久江
清明の土柔らかに匂ひけり 勝 せい子
田や畑でありしところに蕨摘む 岡谷 康子
夏来たる風も光も子の声も 平田千恵子