五月憂し
      谷口 智行
 
春雷のただよふごとく遠ざかる
ひじき蜑海のうねりをくねりといふ
言ひわけをせざる生きざま焼栄螺
雉の声コーセーセンクーと聞こえけり
煙雨とて山割る力花うつぎ
海風の届かぬ鄙に海桐咲く
吾のみ知る七里御浜の青大将
ふたとせのお役といへど五月憂し
はつかなる風にもまれて麦熟るる
よせかへす穂麦の波と医俳の波
 
 
 
 
今月の会員二十句
 
糶声に跳ね桜鯛うらおもて    大久保和子
宮さんは子らの遊び場春休み   髙松早基子
しばらくは飛ばずに跳んで雀の子 福田とも子
春星や誕生の牛濡れて立つ    永田 英子
恋猫の戻りてよりの甘えやう   木塚 眞人
虚子の忌を限りに花の散りにけり 森山 久代
滔滔と師系は継がれ春の星    星野乃梨子
青春の欠片を拾ひ青き踏む    吉田 喬
バギーから野に放たれて土筆摘む 木下 敦子
若者が田に戻り来て山笑ふ    田中 久幸
花仰ぐ度に園児の列乱る     廣瀬 裕千
天神さん詣らず梅を見て帰る   土屋隆一郎
柳絮飛ぶ采女神社の屋根を越え  田村 佐保
筍を掘るや女の執念で      中村 敏之
ぎこちなく父は子を抱き半仙戯  山本ますみ
ふらここに老の身委ね物思ふ   四方 節子
自衛艦卯波を割りて帰港せり   詫間えりこ
頬杖の浅き爪痕目借時      山里 いと
花見客競輪客と混ざり合ふ    齋藤 弘子
卒業の胸許高き袴かな      砂川 勾玉