山 吹    
           谷口 智行

山吹や筏流すに巌毀ち
つづ桶に蕾の桃をひさぎをり
ものいひのやさしひひなの日の姉は
春笋を掘れり晴れても曇りても
鳥の名はとき魚に訊けよ風光る
   「とき魚」は深耕集の檜尾とき魚さん
野遊を終へてたがひのにほひ嗅ぐ
異界とは乳よりも濃き春の霧
山桜師を呼ぶこゑのおのづから
フェンネルや地図に健次の路地なくて
下萌にAEDを広げけり


今月の会員二十句

斧始木霊を返す隠れ里       大久保和子
蓮如忌の菅浦里の四足門      矢野典子
受験子を乗せし車に道ゆづる    森井美知代
鳥どちの声がほがらか春隣     水野露草
美しき羽を拾ひて野に遊ぶ     松村幸代
啓蟄や籠りたる母連れ出して    髙松早基子
恋猫のためらはず跳ぶ舫舟     福田とも子
強霜や医科に動物供養塔      木塚眞人
獣医来て罠に掛かりし猪捌く    木下敦子
深吉野の夜の青々と春の月     山口素基
挿せるだけ菜の花挿して慈母観音  瓜坂孝依
焼くといふ野趣を好まれ蕗の薹   田中久幸
おもかげの安騎生あらたや春の雷  貞許泰治
朝引きのかしわ売る店春めけり   山﨑隆代
お遍路の列のとぎれず長谷詣    二谷久美子
落雲雀地の寸前で横つ飛び     山口哲夫
修二会僧貝吹き合はす別火坊    上南明江
雨の日は一日眠る恋の猫      田村佐保
開戦の報あり春の遊園地      早川徹
母子草辻の地蔵に摘みにけり    髙嶋瑞枝