野老飾る 茨木和生
山で掘り来たる野老を飾りけり
2022年版「俳句年鑑」より転載
歳神を讃ふる吉書束ねけり
持込みの酒のいろいろ薬喰
赤土を二鍬のせて葱囲ふ
地に触るるごとくに飛んで綿虫は
山畑の畝間落葉を入れ足せり
松二本立てて年縄掛けにけり
年籠 谷口智行
鷹柱とは天心を支へざる
伊勢海老漁解禁、漁師曰く
わいらには月夜休みといふがあり
ひとつふたつと綿虫が怒濤へと
もんぺ干しゐたるとみれば鱓なる
み熊野の冱寒の森の山の神
ゐのししの耳毛を山神へ供ふ
生駒嶺にあまねかりける冬日かな
漂着神(よりがみ)として年の夜の溺死者よ
琴かかふやうに寒夜の死者いだく
年籠休耕の田に遠からず
リモートの講義夜長を通しけり 森井美知代
花野なしゐたり葛城山頂も 水野 露草
島ぢゆうを休校にして浦祭 山内 節子
初鴨や青粉のしるき神の池 大石 久美
旧道は途切れとぎれに薬掘る 福西 泰子
墓洗ふ裏山に水捨てながら 上野山明子
愛の羽根学章のすぐ傍につける 杉田 菜穂
潮風や干せる漁網に虫すだく 木下 敦子
豊年やよいしよよいしよが口癖で 星野乃梨子
海の日の潮風に乗るカレーの香 山近由美子
ぱんと音せるは踏みたる烏瓜 山口 哲夫
頰杖のテレビ会議や末枯るる 黄土 眠兎
ベランダを裸足で歩く良夜かな 早川 徹
モンローは消されたんだよ黒葡萄 松山 睦子
死産てふ牛舎の掲示木の実落つ 平田千恵子
山盛りに注げてふ翁温め酒 黒野 成彦
長き夜を介護支援の人とゐる 松葉 竹梅
波の間に尾越の鴨や浮御堂 笹岡紀代子
蚯蚓鳴くなり口利かぬまま風呂に 砂川 勾玉
鬼灯を鳴らし少女にかへりたる 三宅佐和子