馬鹿の花  谷口智行

海に腹さらす村々浜おもと
陸よりも海が隆々馬鹿の花
どこからが海どこからが出水川
産院と墓地は地続き夏の月
田の水を捌きし石も灼けゐたり
菱波立つ土用の沖のひとところ
蚊のごとく諸手にうたれ二化螟蛾
衣嚢より玉虫の翅蟬の殻
波音も藪蚊も神もついてくる
乞巧奠記紀の山河に囲まれて

敷藁の色にも疲れ茄子の花 浅井陽子
竹植ゑて夕べの風の立ちにけり 井上綾子
雨あとの日差の強し桑苺 大石久美
雨蛙百葉箱に来て鳴けり 清水 修
墓を守るタオル一本分の汗 山崎英治
万緑を貫くねぢりまんぽかな 吉岡葉子
もぐら穴塞ぎて畔を塗りゐたる 山中千恵子
まだ命あるもの曳いて蟻の列 山崎 馨
手に取れば指覚えをり粽結ふ 前田景子
大関の負けに負けたる五月かな 武田修志
青田風入れて発車の無人駅 池田綵静
おかあさんゆびより天道虫ばいばい 早川 徹
生臭き命は抜けて蛇の衣 塩見昌一郎
ポケットの仁丹出して更衣 村山勝則
祭馬鞍外されてたたら踏む 鵜川久子
精神科外来床に昼寝人 山口哲夫
ででむしや昨日今日明日マイペース 小坂敏誉
全校生十一人の更衣 勝山純二
また母は目高もらつて来たりけり 斉藤秋人
白日傘ゆらゆら坂を登り来る 伊藤泰子