もの言ふくちびる
       
         谷口 智行

鰹来るころ海境のすみれいろ
波音をそがひに蕗の若葉摘む
芳春の紀へと運河の引かれけり
お四国のまんまんなかの山桜
春の鳶港の空に飼はれゐる
米の田の四方をかこみて麦青む
乾きたる水車のきしむ登山口
弔客のおのもおのもの日焼がほ
玉巻く芭蕉百歳のゆたけき死
痩せ浜のぬかるんでゐる浜払子

縁側をいたく気に入り雀の子   藤 勢津子
剪定の枝白雲へ比良山へ     浅井 陽子
柊挿す室生村立小学校      松井 トシ
風花やあをあをとある物の影   山内 節子
辛夷咲き戸数変はらぬ暮しなほ  井上 綾子
海鼠腸や真砂女の店を知る人と  小畑 晴子
一族の若返りたる初座敷     永田 英子
朧夜の箱より出せる偽真珠    上野山明子
着ぶくれて貰ふ毛染めの試供品  中川 克己
森の声星の声聞く初詣      小林 恕水
暮石師の杖を拝借楤芽採る    田和三生子
北面をけはしく削ぎて山眠る   御江 恭子
楮剝ぐ湯気引きちぎり引きちぎり 山尾カツヨ
寒の雨真青なる鳥過りけり    藤田 駒代
あさもよし紀へ春めける岩跨ぐ  辻 佐和子
枇杷の花姉とおんなじ肝斑つくり 山中千恵子
春雪に潮の匂ひ濃かりけり    吉岡 葉子
春日燦燦丸の内ティールーム   二谷久美子
丁寧に絵筆を洗ひ日脚伸ぶ    草地 明子
黄身ふたつ出る人日の朝御飯   中川 悦子