恋のささやき 谷口 智行
きさらぎの伯母峰おもふ平群をおもふ
灘沖のひかりまぶしき涅槃かな
山ひとつ越えきて楤の芽を摘めり
ちるものはちりてさくらの咲きそろふ
花筏ちさき手波にくづれけり
ぶらんこをしつらへてゐるホルトノキ
春昼の止血鉗子を落とす音
人の訃へいそげり石鹸玉をぬけ
磯遊び雨気だつ風と海のいろ
聞こえくる恋のささやき春の森
この子より先には死ねぬ年新た 大久保和子
檀家衆三日がかりのどんど組む 森井美知代
剝製のできばえほめて薬喰 田邉 富子
熱燗に口のすべつてしまひけり 大石 久美
おうおうと声を束ねて注連作り 永田 英子
分数につまづきたる子聖菓切る 上野山明子
日輪の子を宿したる冬泉 木塚 眞人
遮断機の海へと開く恵方かな 星野乃梨子
冬桜あの芭蕉にも思ひ人 池田 緑人
引けば引くほど離れたる毛糸玉 中畑 隆男
探しもの目の前にある初笑 五十嵐藤重
息を吐き初日の色の息を吸ふ 紋名 りさ
ポインセチア抱いて新地の夜を行く 冨田 美子
丸ビルの下に来てゐる夜鳴蕎麦 安田 徳子
大年の祠の雪を手で払ふ 黄土 眠兎
クリスマス特価の仔犬売られをり 青野香代子
こぽぽぽと花器に水継ぎ松の内 岡田 幸子
着ぶくれて優先席を譲り合ふ 徳永ひと葉
冬菫会ふたびに母童女めき 草地 明子
太陽をパンと呼ぶ子と初日浴ぶ 早川 徹